大口町の自然と生きもの
自然観察指導員
吉田 昇 さん
江南丹羽環境管理組合環境美化センターに勤務。
1級ビオトープ計画管理士・施工管理士。大口町史(近現代編)執筆委員。NPO法人ふるさと自然再生研究会会員であり、岐阜県博物館サポーター標本作成グループに所属するなど動物の標本作成を行いながら、大口町をはじめとした尾張北部地域を中心に、動植物の観察・採集・記録・研究・教育普及活動などを行っている。
自然観察指導員から見る大口町の“自然”
「大口町の印象は、“田んぼや畑がたくさん広がる町”であり、他の地域とくらべると山林や、木曽川のような大きな川がありません。大口町は自然が多いと言われることもありますが、田んぼや畑は人が作ったもので、正確には人々の生活とともに営まれてきた二次的な自然だと思います。昔は雑木林や昔ながらの河川なども多くあったと思いますが、現在では土地開発が行われ都市化してしまい周辺の地域に比べ、原生的な自然環境が少ない場所ではないかと思います。」と言う吉田さん。
しかし、その中で、「田んぼにすむ生きもの、昆虫、野鳥やほ乳類などが、五条川をはじめ、大口町を流れる川を中心に、今も多く生息している。キツネ、タヌキ、サギなどから、まれにオオタカやニホンイタチ、ヒメボタルなどもみることができる。大口町の特徴である田んぼの広がる風景の中で、人々と、そこに暮らす生きものが共存している。」とも話す。
職場の環境と、探求心から極めた
「生きもの」への情熱。
動物が五条川や合瀬川などの河川環境から、えさ場である周辺の田んぼや草地などへ移動する時に道路を渡る必要があるため、ロードキル(交通事故など、道路による影響で野生動物が死亡すること)が多く発生する大口町。
吉田さんは、このようなロードキルによって死亡した動物の死体に対し、敬意と尊厳を持ってはく製や毛皮などの標本として加工し、大口町に確かに生息していた証として残す活動をしている。
「ロードキルの動物は、区分はごみとして扱われるので、処分すれば無くなってしまう。標本にして残せば記録となって後世に形として残すことができる。」と吉田さん。
職場の近くに五条川や合瀬川が流れており、川や田んぼに生息する生きもの、またそれをえさとする生きものが集まってくることから、吉田さんの探求心に、環境が重なり、活動の幅を広げている。
次世代に伝える
大口町内小学校で、総合的な学習の時間に“大口町に住む生きもの”についての授業を行っている。
比較的生きものと出会う機会が多いはずの大口町だが、生活スタイルの変化で、虫を取ったり、川に入って遊んだりする機会がなくなり、実物の生き物を見ることが少なくなっていることから、この授業では、大口町の自然について学んだ後、実際に生息している動物や昆虫の標本を見て、触って体感する。子どもたちにとっては、貴重で衝撃的な体験だ。
大口町は南北に長い町なので、北部・中部・南部で自然環境が違う。吉田さんは各小学校にあわせて、その地区の特徴に合わせた授業を行っているが、この授業が心に残り、大口町の自然を守る気持ちを育てていく貴重な時間となっている。
これからの大口町のために
大口町は、大きな山や、広い川はないけれど、五条川を真ん中に桜や田んぼなどがたくさんある緑と水が豊かな町。
五条川には“住む場所”“隠れる場所”“餌を食べる場所”があり、生きものが生活する大切な場所となっているが、ビオトープも大切な自然のひとつだ。
「もっと生きものたちが集まるような、自然を守る・つくる・つなげる行動が必要です。」と子どもたちに伝える吉田さん。
自然をつなげる事で、動物が交通事故にあわないようなまちづくり、五条川を美しく保ち、生きものがたくさん集まるまちづくりをしていくことが大口町の幸せな未来につながるだろう。